がん患者の精神・心理を学問で

2011年9月4日 産経新聞

がん患者さんは一人にしない

サイコオンコロジー(精神腫瘍学)は、がんと精神・心理との相互の影響を扱う学問です。僕が今住む米国では、医師だけでなく看護師や臨床心理士などさまざまな医療従事者がこの学問について学び、日常の診療や患者さんとの関係づくりに取り入れています。

先日、悪性腫瘍と闘う患者さんの心理的なサポートをお手伝いする機会がありました。ボランティアの一人として日本の折り紙を紹介するという活動です。

僕が産婦人科医ということもあってか、参加した方は子宮がん、卵巣がん、乳がんなど全員が婦人科系疾患の患者さんでした。直前になって体調を崩され参加で きない方もいらっしゃいましたが、参加した方は元気で陽気な人ばかりでした。とはいえ、元気に見えても、どこかに不安を抱えているのかもしれません。

僕を含めた4人の日本人スタッフが、日本の七夕にちなんだ飾りや折り紙を紹介しました。日本人にとっては何てことのない折り紙ですが、1枚の紙からかぶとや鶴の形ができると、みんなとても喜んでくれます。なんだか自分たちがすごい人になったような気分です。

折り方を教えると、みなさん真剣になって折り始めます。「たかが折り紙」と思うかもしれませんが、何かに集中することで患者さんは心を落ち着かせ、それが病気に対しても良い影響を与えるようです。

僕ら自身もとても充実した時間を過ごすことができました。また参加したいという方が多く、日本人としてうれしかったです。

「同じような病気と闘う人と一緒にいることで自分は一人ではないと感じることができる」。こう話してくれた方がいました。

米国では本当にこういう活動が盛んです。参加するまで、「何が楽しいんだろう?」と思っていたのですが、社会として誰かを一人きりにさせない取り組みはと ても重要だと感じました。同時に、日本に戻ったとき、当直をこなしながらこうした活動ができるかしらと思ったのでした。

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