「糖鎖」「糖鎖栄養素」という健康食品があります。
「糖鎖は生命の維持に重要な役割を果たしています」とは紛れもない真実です。
確かに糖鎖は、体内で重要な役割・働きを担っており、
細胞表面にあるレセプターも含めて糖鎖によって形成されて機能しているのです。
現状では糖鎖はタンパク質・DNAに続く第3のバイオポリマーと呼ばれ、
その構造とその働きを解明することは、次世代の高分子化学の最も重要な課題となっています。
そのため政府が研究費の予算を増大して研究しているのです。
これは、ドイツ人ギュンター・ブローベル博士(ロックフェラー大学教授)が
「細胞内でのタンパク質による支配信号の発見」し、1999年にノーベル賞を受賞したのが契機なのですが、
この業績を糖鎖の働きに関連付けるのは少し乱暴な理論です。
また、脚光を浴びた2002年度の田中耕一氏のノーベル賞受賞(生体高分子の新構造解析法開発)の業績は、
糖鎖を始めとする高分子を"観察する技術を進化させた"ことが評価されたものでした。
確かに複雑な分子の構造解析を実施するためには、
分子の状態を詳細に観察することが必要ですが、糖鎖を摂取することの重要性とは相関がありません。
つまり、田中耕一氏の研究がノーベル賞を受賞したのは間違いなく偉大な功績ですが、
それによって観察が進もうとしている糖鎖を含む高分子全てが重要とは限らないのです。
重要、または機能性が大きい成分もあれば、必要度の低い成分も多様にあるのは当然です。
ところで、これほどまでに体に重要とされる「糖鎖」「糖鎖栄養素」とはどのような物質なのでしょうか?
糖鎖とは、「各種の糖がグリコシド結合によって繋がった一群の化合物」の総称とされていますが、
実は糖鎖とは、膨大な高分子"全般"を指す言葉であり、
非常に範囲の広い分野を指す言葉なのです。
実は、機能性健康食品として注目を浴びつつあるβグルカンやフコイダンも
グルコースやフコースとして糖鎖の一種に分類されます。
また一方では、砂糖や紙(セルロース)もグルコースとして立派に「糖鎖」の一種です。
糖鎖と呼ばれる物質の範囲は、膨大で漠然としているのです。
糖鎖には体内で重要な働きをする種類もあれば、
重要とは言えない、または大量摂取が弊害をもたらす種類もあると言えます。
例えるならば、「野菜は体に良い!!」の如く抽象的な言い回しに似ています。 野菜が体に良いことは総論として正しいのですが、 各論としては、どの種類をどの程度の量に組み合わせるのが適切なのかが重要です。 野菜のどの種類のどの成分が健康に良いのかは栄養学として確立されているのと同様に、 糖鎖と呼ばれる多岐にわたる種類の高分子の中でどの種類が体にどのような影響をもたらすのか、 各論で突き詰める必要があります。 「糖鎖」は総論で語るにはあまりにも広範囲な対象を指しているため、 総論では正しいのですが、 それぞれの高分子の種類と量の機能性と必要性は各論でさえも、 検証が待たれているのが現状です。
しかしながら、「糖鎖」として販売されている健康食品には、詳細表示さえ見当たりません。
「バランスよく配合しました」だけでは、あまりに乱暴です。
つまり、糖鎖の何種類がどれだけ含まれているかが明示されないということは、
内容物の殆どがたんなるセルロース(食物繊維)である可能性すら否定できないではありませんか。
最悪の場合には、片栗粉(グルコース)が100%でも、「糖鎖100%」は虚偽ではないのです。
ましてや、最も重要なはずの成分表示は、法律で表示が義務付けられているにもかかわらず、
主要な機能性成分の掲示もなければ、当然に配合比率も示されることはありません。
体内で各種の糖鎖が重要な働きをすることはあきらかなのですが、
これらは体内で合成されてこそ機能することが判っています。
糖鎖を経口摂取することで、消化吸収を経て、
体内合成を如何に補正するかは、全く実証の無いところなのです。
人間の体内でしか合成でない糖鎖(糖たんぱく質)が重要な働きをしているのは、
最近の研究であきらかになりましたが、
経口投与した際の効果効能についてはまだまだ研究途上なのです。
また、細胞表面等の体中で重要な働きをする糖鎖の殆どは、
体内合成によって得られるのが基本の生命の営みです。
体内合成されるはずの物質が経口で消化器官で経て、
どのように取り込まれ、周回し、機能するのかを把握することは、
一部、ベータグルカンでの効能が解明されているだけで、
その他の多糖類については まだまだこれから実験と議論が開始される途上なのです。
混合比率の不詳な「糖鎖」の経口摂取に意義があるのかは極めて不詳と謂わざるをえません。
糖鎖に分類される成分が重要な要素である可能性は高い。
しかし、詳細内容が不明な「糖鎖栄養素」には、機能性は期待できない!と考えるのが正常です。